新しいチームに着任した直後は、覚えることが多すぎて、どこから手をつけていいか分からなくなりがちです。早く成果を出さねばと焦り、いきなり自分のやり方を持ち込むと、たいてい空回りします。書籍『Googleで学んだ 圧倒的成果を出し続けるマネジャーの最優先事項』は、着任からの最初の3ヶ月を、成果を急ぐ期間ではなく、チームを立体的に理解する期間だと位置づけます。
この時期にやるべきことは、大きく3つです。①メンバーを知る、②業務を知る、③組織の実態を知る。しかも、どれも一面的にではなく、多面的に。同じテーマでも複数の人から話を聞き、断片を集めて全体像をつかんでいきます。
なぜ「多面的に」が大事なのか。書籍は、インドのことわざを引きます。
インドのことわざに「群盲、象を撫でる」というものがあります。
目の見えない人たちが象の一部だけを触り、脚を触った人は「柱のようだ」、鼻を触った人は「蛇のようだ」と、それぞれ違う結論に至る——という寓話です。一人の話、一つの情報だけでチームを判断すると、同じ過ちを犯します。着任直後こそ、結論を急がず、いろいろな角度から情報を集める姿勢が要ります。
とりわけ大切なのが、メンバーの理解です。書籍が求めるのは、スキルや実績を把握することにとどまりません。
感情・価値観・背景を持った「全人格的な存在」として理解しようとする姿勢です。
何が得意で、何に困っていて、何を大切にしている人なのか。仕事の話だけでなく、その人となりまで含めて知ろうとする。この土台があってはじめて、後の目標設定やフィードバックが的を射たものになります。理解は、あらゆるマネジメントの出発点なのです。
メンバーの理解と並行して、業務と組織の全体像もつかみます。業務では、チームが何をして価値を生んでいるのか——顧客に届くまでの流れ(バリューチェーン)や、成果に効く指標を押さえます。ここで役立つのが、結果として表れる数字(結果KPI)だけでなく、その手前にある行動の数字(インプットKPI)まで見ること。結果は後からしか動きませんが、インプットは今日から変えられます。組織については、誰が意思決定に影響力を持ち、どんな力学(チームダイナミクス)で物事が進むのかを観察する。表向きの組織図だけでは見えない「実際の動き方」を知ることが、後の推進力になります。
理解を深める最も有効な手段が、1on1です。着任直後から一人ひとりと対話の時間を持ち、「最近どう?」で終わらせず、相手の関心や不安を丁寧に引き出していく。ここで焦って自分の考えを押しつけないことが肝心です。最初の数ヶ月は、話すより聞くことに重心を置く。そうして集めた理解が、その後のチームづくりの財産になります。
逆に避けたいのは、前の職場や自分のプレイヤー時代の「成功したやり方」を、理解のないまま新しいチームに当てはめることです。それは一見スピーディーに見えて、メンバーの主体性を奪い、信頼を損ねます。最初の3ヶ月は、成果で存在感を示す時期ではなく、信頼と理解の土台を築く時期。ここで築いた土台の厚さが、その後1年、2年のチームの伸びを左右します。
3ヶ月の理解は、集めて終わりではありません。集めた情報から、チームの強みと弱み、放置されている課題、伸びしろのある人を見極め、次の四半期の目標づくりへとつなげていきます。着任期の理解が浅いまま目標を立てると、現場感のない「机上のプラン」になりがちです。逆に、土台の理解が厚ければ、メンバーが「分かってくれている」と感じる目標を一緒に描けます。最初の3ヶ月は、その後のマネジメント全体の精度を決める投資期間なのです。
焦る気持ちは自然なものです。それでも、まずは理解から。急がば回れが、着任期には最も確実な近道になります。