「最近どう?」——1on1でそう切り出して、「特に変わりありません」と返され、あとは業務の進捗確認だけで時間が過ぎていく。気づけば1on1が、報告会か、少し気まずい雑談の時間になっている。何のためにやっているのか、自分でもよく分からない。マネジャーなら、一度は感じたことがあるのではないでしょうか。

書籍『Googleで学んだ 圧倒的成果を出し続けるマネジャーの最優先事項』は、1on1を「上司への業務報告」ではなく、メンバーの成長を支える対話の場と位置づけます。すべての会議の最小単位であり、一番現場に近く、変化が生まれる起点だからこそ、設計が問われるのです。

なぜ「最近どう?」では会話が死ぬのか

漠然とした問いには、漠然とした答えしか返ってきません。

「最近どうですか?」といった漠然とした問いを投げても、部下からは「特に変わりありません」と返ってくるだけ。

部下は、とくに上司に対しては建前を語りがちです。表面的な答えをそのまま受け取ってしまうと、その奥にある本当の関心や不安には永遠にたどり着けません。1on1がうまくいかないのは、部下のやる気の問題ではなく、多くの場合、問いの設計の問題なのです。

話す比率は「上司2:部下8」を目安に

放っておくと、1on1はマネジャーが話し続ける時間になりがちです。指示を出し、アドバイスを重ね、気づけば上司7・部下3。これでは、部下が自分の考えを言葉にする余地がありません。

書籍が一つの目安として挙げるのが、話す比率です。著者はGoogleでの体感として「上司2:部下8」くらいを目指していたと言います。厳密な数値ではなく、それだけ「聞くこと」に重心を置くという姿勢の表明です。すぐに解決策を出そうとするより、まず聞ききる。マネジャーがすべての問いに答えを出す必要はなく、受け止めるだけでも1on1には価値があります。

1on1は「相手を理解する」時間でもある

問いの質を上げる前提になるのが、相手そのものへの理解です。書籍は、着任からの最初の3ヶ月を、チームを立体的につかむ期間と位置づけます。①メンバーを知る、②担当業務を知る、③組織の実態をつかむ——この3つを、複数の相手から多面的に聞いていく。

インドのことわざに「群盲、象を撫でる」があります。目の見えない人が象の一部だけに触れ、脚を触った人は「柱のようだ」、鼻を触った人は「蛇のようだ」と、それぞれ違う結論に至る。一人の話、一つの情報だけで全体を判断すると、同じ過ちを犯します。1on1は、その断片を丁寧に集めながら、メンバーを感情や背景を持った「全人格的な存在」として理解していく場でもあるのです。

現場での使い方——問いを、思考の補助輪にする

明日からできる具体策は、3つあります。

1つ目は、アジェンダを構造化すること。①共有したいこと、②議論したいこと、③その他、と大枠を決めておくだけで、前半で業務を片付け、残り時間を相手のための対話にあてられます。2つ目は、問いを変えること。「最近取り組んでいる仕事で、一番のチャレンジは?」「最近、驚いたことは?」「これからどんなスキルを伸ばしたい?」——具体的な問いは、部下の思考の補助輪になります。3つ目は、手ぶらで臨まないこと。オープンな質問を用意し、提示できる選択肢やリソースを準備してから席につく。準備の差が、対話の深さの差になります。

そして、1on1で出た約束や小さな気づきは、その場で終わらせずにメモに残しておきましょう。次回、その続きから話を始められると、部下は「ちゃんと見てくれている」と感じます。積み重ねの記憶こそが、1on1を単なる予定から信頼の場へと変えていきます。

「初めて反応があった」瞬間

著者・水野ジュンイチロがnoteで公開している連載漫画に、この手応えを描いた場面があります。当たり障りのないやりとりが続いたあと、主人公が一歩踏み込んで「キャリアに、焦ってない?」と問いかける。すると部下の表情が初めて動き、人事への率直な思いがこぼれ出す——というくだりです。

連載漫画『ハジメ課長』より。踏み込んだ問いかけで、部下の本音が初めてこぼれ出す1on1の場面
連載漫画『ハジメ課長』第2話「ハジメ課長、本音を聞く。」より。noteで全編を読む

問いを一つ変えるだけで、1on1は報告会から対話に変わります。「最近どう?」の代わりに、相手が思わず答えたくなる問いを、次の1on1で一つ用意してみてください。その一問が、指示待ちのチームを、自ら動くチームへと変えていきます。

書籍『Googleで学んだ 圧倒的成果を出し続けるマネジャーの最優先事項』
『Googleで学んだ 圧倒的成果を出し続けるマネジャーの最優先事項』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)